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「Well-being(幸福)」と「Welfare(福祉)の両立目指す
株式会社スマイルーク(群馬県・伊勢崎市)の取り組みと葛藤

必要性と必然性の狭間の中で、「訪問介護+重度訪問介護」、「訪問看護」、「介護タクシー」福祉サービスを拡充。2023年4月に、日中支援型グループホームをオープン

2019年(令和元年)7月の参議院議員選挙で2人の重度障がいを持った議員が初当選した。難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の舩後 靖彦議員と、脊椎損傷により電動車椅子を操作する右手以外に身体をほとんど動かせない木村 英子議員だ。車椅子で国会に登庁した議員は過去に1977年(昭和52年)の参議院選挙で初当選した八代 英太氏がおり、これ契機に国会ではスロープの整備などが進められ、車椅子用トイレなども設置された。今回の2人の議員の当選により、国会はさらなるバリアフリーをハードとソフト両面から急ピッチで進めることを余儀なくされた。
このニュースは、我が国におけるダイバーシティ化が立ち遅れていたことの象徴でもあり、同時にそこに一石を投じた点で価値を見出すことができる。

しかしながら、私たちの目の前にいる重度の障がいを抱えた人たちはどうだろう? 現実を直視すると、福祉政策・福祉行政には大きな隙間と矛盾がある。その隙間と矛盾は病気やハンディキャップに苦しんでいる人たちやその家族に重くのしかかっている。一方、現状の法や制度が足枷となって、医療・福祉におけるサービスの量的・質的向上を阻んだり、そこでのイノベーション(変革)を鈍化させているケースさえあると聞く。

群馬県伊勢崎市にある株式会社スマイルークは、重度障がいを持った人たちと真摯に向き合いながら、一歩一歩、前進を続けている福祉サービス事業者である。正確には訪問介護事業者であり、訪問看護事業者、患者等搬送事業者でもあるのだが、何故、同社が事業を拡充してこなければならなかったのか⁈ そこに我々は、医療・福祉の「在るべき姿」を垣間見ることができる。同社の設立の経緯から、直面した課題と解決策、今後の展開を踏まえて、医療・福祉に求められる未来の方向性を探ってみたいと思う。

福祉サービスの要は、入り口となる「相談支援」にある

株式会社スマイルークは2018年(平成30年)11月に、訪問介護事業者として設立された。現在は、「ケアサポ24」というサービスブランドで、まさしく「24時間365日体制」による訪問介護・訪問看護・介護タクシーを含めた福祉支援サービスを提供している。このようなスタンスで福祉サービスに取り組んでいる企業は全国的にもまだまだ希少といえる。
しかしながら、代表取締役の板橋 亨氏は福祉サービスにとっての要は、実はサービスを利用する以前の入り口にあるという。そこで、同社が注力しているのが、「相談支援」である。

「障がいを持った人や患者さん、そしてその家族が求めているサービスのプライオリティは一様ではありません。そのため、現状の介護保険に立脚した現状の制度を活用して個々が求める要件を満足させようとすると、そこではさまざまなルールに直面し、適応に向けて多くの手続きやプロセスを踏むことが必要となります。このことは、障がいが重度であればあるほど、ハードルが高くなるというのが実情です。私たちは主に在宅介護・看護を求めている人たちを支援していますが、実際には入居・通所できる施設が必要な人もいれば、施設と医療機関などを結ぶサービスを求めている人たちもいます。福祉サービスは本来、1人ひとりに向き合っていく必要があるのです。その意味で、その入り口となる相談支援を充実させなければ、個々が抱える課題や問題は解決できません。福祉事業を営むに当たって、まずはそこを充実させることが、最も大切なことだと考えました」

実は板橋氏がここまで言い切るのには、理由がある。板橋氏自身が、重度障がいを患う家族を抱える1人であるからだ。大切な家族が、ALS(筋萎縮性側索硬化症)という全身麻痺が進み、人工呼吸器の装着が余儀なくされる難病になってしまったのである。板橋氏にはその突然の不幸が発覚した際に、どこに相談しても解決の糸口を見つけられずに苦汁をなめた経験がある。だからこそ、相談先での最初の一歩の大切さを実感しているのである。
そのため、同社の「相談支援」では、本人や家族の心身の状況、環境や日常生活の状況などのヒアリングからスタート。希望する生活に向けて必要な支援や支援する上で解決すべき課題などを把握する。その上で「ケアプラン」を作成し、プランに基づき決定される福祉サービスの支給などをきめ細かく提示し、納得の上でサービスを提供。また、「相談支援」という入り口をバックボーンに、利用開始後も支援者間の情報共有・連絡調整を欠かさず、定期的なヒアリングのもとに必要に応じてプランを見直し、継続的な支援を行うことができているという。

実際に、福祉制度の利用は、単に申請すれば簡単に受けられるものにはなっていない。例えば、介護保険を使った訪問介護には「2時間ルール」というものが存在する。「2つの訪問介護サービスの間隔が2時間以上空いていない場合には、1度のサービスとみなす」というルールである。つまり、1日2回以上サービスを利用したい場合は、原則2時間以上の間隔を設ける必要が生じる。介護保険には身のまわりの世話の一部にサポートが必要な「要支援1」から、ほぼ寝たきりといった状態の「要介護5」まで7段階の要介護度区分があり、それぞれ保険適用受けられるサービスが定められているが、重度になればなるほど、この「2時間ルール」では充足できなくなることは明白だ。
これはほんの一例で、介護制度にはソーシャルワーカーやケアマネージャーといった専門家でさえも、完全に法や制度を解釈できているとは言い難い。現実問題として介護保険制度自体、1997年の介護保険法成立を踏まえて、2000年に施行された新しい仕組みである。しかも、幾度もの法改正を重ねている。ただでも多忙な福祉のエキスパートたちが、法や制度の運用を踏まえた最適解を見出せずにいるのも無理はない。

一方、板橋氏は重度障がいを抱えることになってしまった家族のために、自身で役所に掛け合い、現状の法や制度の活かし方を模索してきた。いうなれば、現実の課題に直面し、解を見出さざるを得ない状況をくぐり抜けてきた人物である。そこで得た経験と知見は、資格取得のための勉強とは一線を画しているだけに、相談者にはリアリティを持って受け入れられているのであろう。同時に福祉サービスを提供していく上で欠かせないキーパーソンであるソーシャルワーカーやケアマネージャー、実際に現場でサービスを提供する介護福祉士や介護ヘルパーとも、円滑かつ綿密なコミュニケーションを構築できるのである。

ところで、「スマイルーク」というユニークな社名の由来は気にならないだろうか? 造語であることは察することができるが、そこには深い意味が内包されている。というのも、板橋氏は、長年に亘って不動産や建築設計の専門家として生業を営んできた。それが、ごく身近な家族が深刻な重度障がいと診断される病に罹り、先ようなの経験を重ねてきた。それだけに、意を決して設立した「スマイルーク」には「スマイル」と「住まい」、そして「行く(向かう場所)」いう、板橋氏自身の人生と希望が凝縮されているのである。

「大切な家族が倒れ、重度障がいが進行する病気であることが分かった時点で介護離職を覚悟しました。住み慣れた自宅での介護を希望していたからです。当然、その希望を叶えるには、十分に安心できる介護・看護が不可欠でした。ところが、実際に役所や制度と向き合い、既存のサービスを利用しようとすると、思うようにはいきませんでした。しかも、地元でそのようなサービスを提供してくれるところが、なかなか見つかりませんでした。であれば、そこを補完できる事業を自分で立ち上げるしかない。利用者である患者・障がい者目線でサービスをとことん追求したいと考えて、いまの会社を設立しました」

株式会社スマイルーク代表取締役の板橋 亨氏

株式会社スマイルーク
代表取締役の板橋 亨氏

「自薦ヘルパー制度」を通じて学んだノウハウを礎に起業

「障がいがあっても住み慣れた地域で、安心して暮らせる共生社会の実現」……。スマイルークは、これをパーパスに自らの事業を拡充しているが、ここでキーワードとなるのが「重度訪問介護」という領域である。一般的に「訪問介護」というと介護保険の適応領域を指すが、「重度訪問介護」は「障害者総合支援法」に基づく障害福祉サービスで、介護保険制度とは一線を画している。

例えば、介護保険の適応が原則(第1号被保険者)として65歳以上の高齢者を対象としているのに対して、重度訪問介護は原則として18歳以上が対象(自治体の判断により例外あり)で、障がい支援区分「4以上」の重度の肢体不自由者、重度行動障がいのある知的障がい者や精神障がい者が在宅生活を送る場合のサービスとなる。
しかし、そのサービスを享受するためのハードルは決して低くない。障害福祉サービスは、「介護給付」・「訓練等給付」・「地域生活支援」の3種類に大別されるが、重度訪問介護はそのうちの「介護給付」に該当する。そのためには「サービスの利用申請」・「障がい支援区分の判定」・「サービス等利用計画の作成」・「市町村の支給決定と受給者証の受け取り」という4つの手続きをクリアする必要があるが、手続きが煩雑なため、かなりの時間を要する。2カ月以上を要することも稀ではないという。
なかでも「障害支援区分」は市町村などの自治体が行う認定調査が条件となる。「移動や動作」、「身の回りの世話や日常生活」、「意思疎通」、「行動障害」「特別な医療」という5つのカテゴリからなる80項目に及ぶ身体や内面の状態についてのヒアリング調査、医師による指示書・意見書、加えて調査項目だけでは分からない個別の状況を記入する特記事項を踏まえて市町村審査会が総合的に判定し、ようやく認定されるのである。これだけでも、交渉過程における利用者側の苦労は想像に難くない。

問題はそれだけではない。重度訪問介護に対応できる事業所は全国的に少なく、十分な経験とスキルを有するヘルパーも不足している。そのため、認定されたとしても十分なサービスを受けられるとは限らないのである。しかも、「重度訪問介護」が介護保険制度にはない障害福祉サービスであるにもかかわらず、65歳以降は基本的に「介護保険制度」を利用することになる。重度訪問介護を利用できる道も残されてはいるが、それは自治体の判断に委ねられている。

上記のような制度上の制約もあって、重度障害を持つ人たちにおいては、「自分仕様の日常」を送ることができずにいる人たちが少なくない。その解決方法の1つとして、板橋氏が会社を設立する前に取り組んでいたのが「自薦ヘルパー制度」である。
この制度は簡単に言うと、当事者自身が介助者を自分で選べるということだ。一般的なケースでは、当事者が地域のヘルパー派遣事業所を選択するが、どのヘルパーを派遣するかは勤務シフトなどを踏まえて、事業所の裁量に任せられている。しかし実際には、フィーリングが合わずに十分な疎通ができなかったり、担当者が変わることによって当事者がストレスを感じてしまうケースが生じている。

一方、「自薦ヘルパー」は、当事者が自分の意思で自分が最も介助してほしい人を選び、専任ヘルパーになってもらうことができる制度である。その際に、自分が選んだ人がヘルパーの資格を持っていないというケースもあるだろう。その場合は、その人の了解のもとに資格を取得してもらえばいい。未経験者の資格取得を支援しているような良心的な事業所を選び、資格取得後にそこに派遣登録すれば、いつでも専任ヘルパーに寄り添ってもらうことが可能になり、一緒にスケジュールを組んで個々に合わせた比較的自由なスケジュールを組み立てることが容易になる。
その場合、未経験だったヘルパーを当事者自身が育てることになる。一方、ヘルパー側は当事者のペインやニーズに向き合いながら、自身のヘルパーとしてのスキルや経験を積んでいくことができる。双方の負担は決して軽くはないが、信頼できる人に、自分に合ったケアを受けられるというメリットがある。
板橋氏は、申請などに奔走する中でこの制度に出会い、自身が「自薦ヘルパー」となることで、在宅で家族を介助してきたという。

「私が自薦ヘルパー制度を選択したのは、必要に迫られたことでもありましたが、不治の病といわれるALSを宣告された家族と、最も充実した時間を送りたかったのです。それは、まさに必然でした。つまり、私たちが経験した葛藤を源泉に、スマイルークは誕生したのです。それだけに、常に重度障がいの当事者と家族にとって頼れる存在でありたいということを問い続けていきたいと考えています」(前出・板橋氏)

ビジネスにおいては、とかく市場の「Needs(必要性)」に着眼しがちだ。そのニーズは多くの場合、先に商品・サービスがあって形成されていく。いわゆるプロダクトアウトである。超高齢化社会を見越して、シルバー産業といわれるようなビジネスモデルが活況を呈しているのはその象徴だ。
しかし、実際のマーケットでは必要性と必然性が合いまみれており、「Certainty(必然性)」に立脚したニーズが数多く埋もれている。確かにこれまでも隙間産業とかニッチ産業といわれるビジネス領域はあったが、それは専門的もしくは細分化されていたとしても、基本的には幹線道路につながっている生活道路のように傘の下で形成されていた。

その中にあって、スマイルークのビジネスモデルは、従来の福祉制度・福祉ビジネスの延長線上とは一線を画しているように思える。「マイノリティのマイノリティによるマイノリティのためのビジネス」に立脚しているからだ。
誰も注目してこなかった、誰も知らなかった領域……。そこをビジネスとして成立させていくには、多くのハードルが待ち構えているであろう。それだけに同社がいま、どのように奮闘しているかは興味深い。孤軍奮闘で世の中を変えてきた例が、数多く歴史に刻まれているからである。

障がい支援区分の認定調査項目例

障がい支援区分の認定調査項目例

「訪問介護」と「重度訪問介護」を併せ持つバリューとは⁈

前述した通り、スマイルークは設立当初から重度障がいを持った人たちのケアを念頭に置いていた。そのため、同社が最初に提供したサービスである「訪問介護ケアサポ24」では、2つの支援サービスを提供している。介護保険の適応を対象とする「訪問介護」と、「障害者総合支援法」に基づく「重度訪問介護」である。
両者はヘルパーが自宅に訪問し、介護や日常生活上をサポートするという点では変わりはないが、似て非なるものといえる。重度の肢体不自由または重度の知的障害もしくは精神障害があり、常に介護を必要とする人たちへのサービスはより広範囲、多岐に亘るからだ。入浴・排せつ・食事などの介護はもとより、調理・洗濯・掃除などの家事、外出時における移動中の介護、生活に関する相談や助言……。まさに生活全般に亘る総合的な援助や支援が求められ、要介助者と介助者が一緒に過ごす時間も長時間に及ぶ。

両者を併せ持つスマイルークのバリューはそこにある。例えば、高齢者福祉の領域においては、加齢とともに運動機能や認知機能が低下する「フレイル」の状態が進行していくことで、要介護や認知症になるといわれている。ちなみに介護保険における「要介護4」と「要介護5」は、いずれも日常生活のほとんどに介助を必要とする状態だが、「要介護5」に移行していく過程においては、飲み込む力の衰退して口から食事や水分を摂取することが難しくなり、呼吸機能の衰えも顕著になっていく。

このようなケースで求められるのが、喀痰吸引や経管栄養支援(胃ろう・腸ろう)といった医療的ケアである。当然ながら、このようなケアは「重度訪問介護」においては必須の領域だ。そこで医師法などにより医師・看護師などに限られていたこの領域は、「社会福祉士および介護福祉士法」の一部改定により、2012年(平成24年)度から「介護職員等の喀痰吸引等研修(特定の者対象)(第三号研修)」を受講・修了した介護職員においては実施可能になっている。もちろん、医療や看護との連携による安全確保が図られていることなどが条件となるが、「重度訪問介護」を原点とするスマイルークは第3号研修の修了を積極的に奨励。群馬県から「喀痰吸引等登録事業所」として認可されている。「訪問介護」と「重度訪問介護」の両輪を有する同社のスタンスとノウハウ・知見は、世界でも稀な超高齢化社会を迎える中で、確かなアドバンテージになっていくであろう。

「自身の経験からも、重度訪問介護を行える事業所はまだまだ足りていないというのが実感です。その最大の障壁は担い手の不足です。しかし、1人ひとりの利用者にゆったりとした時間の中で寄り添い、日常生活を通じてお互いの信頼関係を築いていけるプロセスは、シフト制の2時間ルールとは違ったモチベーションを与えてくれます。また、第三号研修をはじめとするスキルアップの機会もあるため、いま問われている介護施設の処遇改善へ向けても、一石を投じることができるのではないかと考えています。実際に当社ではキャリアパス要件、職場環境等要件をクリアすることで、国が定めた介護職員処遇改善加算をクリアすることで、十分とはいえませんが着実に処遇改善がなされています。今後はさらなる改善が必要だと考えていますが、そのための企業努力は惜しまない覚悟です」(前出・板橋氏)

現状の介護における報酬は単位数と単価で決まっており、単価は国で定められた基準をもとに地域区分やサービス内容で変動する。その観点において、重度訪問介護の単位数は介護保険を利用した居宅介護サービスと比較して決して優位とはいえず、むしろ単位数が圧倒的に低く設定されている。そのため「重度訪問介護」はビジネス上の参入障壁が高く、それ故に多くの地域で企業が育っていないともいえる。
厚生労働省によると、団塊の世代が75歳以上を迎え、4~5人に1人が後期高齢者(75歳以上)になる2025年には、約245万人の介護職員が必要になると推計されている。しかし、その類型には「重度訪問介護」の対象者が含まれているとは言い難い。多様性を尊重するダイバーシティの時代が標榜されている中、国の施策にも転換を期待したい。

スマイルーク本社の外観 「生活に関するさまざまな相談に応じます」の文字がひときわ光る

スマイルーク本社の外観 「生活に関するさまざまな相談に応じます」の文字がひときわ光る

必然から始まった「訪問看護」と「介護タクシー」への参入

「訪問介護」および「重度訪問介護」に軸足を置いたサービスからスタートしたスマイルークはその後、「訪問看護」、「介護タクシー(患者等搬送事業者)」へとサービスを拡充していく。
「要介護1~5」または特定疾病が原因で介護を必要とする人たちが対象に、主治医の指示にもとにケアマネージャーや薬剤師と連携して看護師などが自宅などに訪問し、病気や障がいに応じて健康状態の維持・回復、悪化防止をサポートする「訪問看護」では、点滴をはじめとする医療処置も可能になる。障がいや病気を超えて「住み慣れた家(地域)で暮らしたい」をパーパスとするスマイルークにとっては、まさしく必然となる機能といえる。それだけに、看護師に加えて理学療法士も採用し、よりきめ細かい「訪問看護」サービスを目指している。

「特に当社においては、重度障がいの人たちを含めて手厚いケアを提供できるというノウハウが蓄積されています。そのことが病院などの地域連携室からも評価され、安定した稼働が生まれつつあります。今後は医療機関・行政などとさらなる連携を図り、地域包括医療の一翼を担う存在を目指しています」(前出・板橋氏)

一方、在宅介護・在宅医療における究極の課題は、地域に根付いたラストワンマイルの脚(モビリティ)である。地域格差に伴う課題として医療難民、買い物難民などといった言葉がクローズアップされつつあるが、介護・介助を必要とする人たちにとっては、以前から顕在していた普遍的な課題に他ならないからだ。その課題解決に向けて、スマイルークは車椅子対応とストレッチャー対応の福祉車両3台を用意して「介護タクシー」をスタートさせた。しかし、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の感染拡大もあって、十分に機能させられないジレンマが生じている。

同社における「介護タクシー」の需要も同様で、午前中はソーシャルワーカーやケアマネージャーなどとの調整に基づく通院や入院先からの帰宅が中心、午後は主として利用者からの要請に応えることを想定していた。ところがCOVID-19禍にあっては、利用者側の発熱や体調不良、医療機関側の体制の変化など、双方で条件が整わないケースが頻発し、午前中の予定されていた業務はキャンセルが相次いだ。特に施設などにおいては感染連鎖によるクラスターを未然に防ぐという観点から、その需要そのものがほとんどなくなった。

このように午前中の稼働が壊滅的となる中で、思わぬ要請もあった。体調の不良・悪化などによって救急車で運ばれたものの入院に至らず、普通のタクシーを利用できず、福祉車両を必要とする人たちの帰宅需要である。このような需要は潜在的にはあるものの、「介護タクシー」の存在は一般のタクシーとは違って、まだまだ十分に認知されているとはいえない。例えば、COVID-19の陽性患者が救急搬送された場合、治療を受けて帰宅する際に公共機関を使えないというは周知の原理原則だ。しかし、その足がなくて困惑するという矛盾も生じている。それだけに、医療機関や行政との連携のもとに、今後の認知・周知が待たれる領域といえるかもしれない。

ちなみにCOVID-19陽性者の搬送については、スマイルークにも県からの要請があった。群馬県では介助を必要としない陽性者の搬送については、隔壁を装備した感染者対応車両を地元のタクシー会社に供与して、その対策を図っている。しかし、要介助者の搬送についてはそのノウハウがないため、同社に依頼が来たのである。要介助者オンリーというピンポイントの要請ではあったが、逼迫する状況を鑑みて同社はそれを受けることを決断。県から感染者対応車両が供与された。

しかし、ここでいくつかの問題が生じた。最大の問題は、感染リスクが回避できるか否かということであった。同社の主要業務は重度な障がいや病気を有する人たちを含めて、感染リスクが著しく高い人たちへのサービスである。それだけに、感染対応が施されている車両だとしても、万が一の連鎖さえも許されない。つまり、自社のメイン拠点から陽性者の搬送を行うことは、どう考えても難しかった。

そこで同社では高崎に新たな拠点を設けることによって、専任で県からの要請に対応することにした。だが、問題はそれだけではなかった。供与された感染者対応車両が車椅子やストレッチャーに対応しておらず、利用者側にも介助者側にも多大な負荷が生じることが予想されたからだ。創意工夫とマンパワーで何とか乗り切るつもりでいたが、要介助者に限ってということで幸か不幸か稼働がほとんどない状態になってしまっている。

ここから得られる教訓は、特に医療・福祉分野におけるモビリティには、やはり適材適所に加えて、「適材適車」でなければならないということだ。COVID-19禍にあって民間救急や介護タクシーの価値、消防救急との棲み分けが再認識されてきただけに、その重要性についても改めて考慮すべき時期にきているのではないだろうか。

「当社の搬送サービスは重度障がいの人たちを想定して、人命救助ならびに臨床救急に踏み込むことを視野に入れています。それだけに、車両においても単に車椅子対応、ストレッチャー対応であるだけではなく、インバーターを装備してAEDはもとより、喀痰吸引や酸素吸引、各種検査・測定などに対応できるようなものにしていきたいと考えています。また、そこでは人材の質やスキルも求められます。そこで運転手もまた、第二種免許のみならず、上級ヘルパーや介護福祉士などの資格を取得し、さまざまな働き方ができるようにしています。もちろん、必要に応じて看護師が同乗するケースも想定しています。いずれにしても、今後の搬送サービスはハードとソフトの両面から利用者を支えていくことが理想です。いまはまだ道半ばですが、その理想を追い続けていくためにも、より多くの人たちから知見を吸収したいと考えています」(前出・板橋氏)

スマイルークが所有する車椅子対応、ストレッチャー対応の福祉車両

スマイルークが所有する車椅子対応、ストレッチャー対応の福祉車両

日中サービス支援型グループホーム「AILE」をオープン

「訪問介護+重度訪問介護」、「訪問看護」、「介護タクシー」と、利用者の視座から「サービスの在るべき姿」を追求・拡充してきたスマイルークだが、すでに次なる理想を具現化している。2023年4月にオープンした医療ケア対応の障がい者グループホーム「ライフコミュニティーAILE(エイル)」である。まさしく同社の社名の由来の1つである「住まい」が誕生することになる。建築設計・不動産のエキスパートでもある板橋氏ならではの着想といえよう。

社会的マイノリティが小人数で支援を受けながら一般住宅で共同生活する、いわばシェアハウスともいえるグループホームには、高齢者や認知症の人たち主とした施設から、軽度障がい者の就労支援、親と同居不可能な子どもたちを対象とした施設などがあるが、「AILE」は重度障がいの人たちが安心して暮らすための「日中サービス支援型グループホーム」だ。
基本的に介護サービスは重度障がい者への生活支援を基本とする「介護サービス包括型」、比較的軽い障がいを持つ人を目的に応じて支援する「外部サービス利用型」、障がい者の重症化・高度化に対応することを目的とする「日中サービス支援型」の3つに大別されるが、なかでも「日中サービス支援型」は2018年(平成30年)度の報酬改定で創設された最も新しいタイプである。最大の特色は昼夜問わず、入居者の状況や体調などに応じたサービスを提供していること。そのため、スタッフの人員配置も従来のグループホーム以上の人員が規定されており、施設内における間取りや設備などの設備基準・審査も厳しいが、厚生労働省による入居者への家賃補助金制度もあるため、大きな期待が寄せられている。
当然ながら、「AILE」にはALS患者を身近に見てきた板橋氏ならではの設計ノウハウが凝縮されている。それは、入居者が自立した生活を取り戻す場所であり、スマイル溢れるコミュニティーであり、24時間365日の安心・安全を担保することに他ならない。

「私自身は住み慣れた地域を大切にしたいと考えていますが、日中サービス支援型自体が新しい制度に立脚していることから、AILEのようなコンセプトのグループホームは全国的にまだまだ少ないのが現状です。私たちのコンセプトをご理解いただけるのであれば、他の地域からの入居にも喜んで応じます」(前出:板橋氏)

ということなので、必要に迫られている方、現状に満足されていない方は、下記の案内を参考に問い合わせてみるのもいいだろう。

まとめ:「Welfare(福祉)」の先にある「Well-being(幸福)」考察

ここまでスマイルークの真摯な取り組みについてウォッチしてきたが、それらを通じてイメージできたことは、「Welfare(福祉)」の先に「Well-being(幸福)」が見えてこなければならないということだ。「Well-being」は従来の「健康・幸福」を超えた概念として注目を集めている言葉で、17のゴール・169のターゲットから構成される「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」の「地球上の誰1人取り残さない(Leave no one behind)」という誓いにも組み込まれている。その定義においては、WHO(世界保健機関)憲章の前文にある次の一節が用いられることが多い。

Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが 満たされた状態にあることをいう。(日本WHO協会仮訳)

いうなれば、「Well-being」は肉体的・精神的・社会的すべてにおいて満たされた幸福を意味する。しかも、同じ「幸福」でもHappinessが「瞬間的・相対的」なのに対して、Well-beingは「持続的・絶対的」でなければならない。

その観点において、「Well-being」と「Welfare」の関係は、前者が追求・達成すべき「目的・目標」であり、後者は制度・仕組み(システム)・サービスを包含した「手段」であると考えるのが妥当である。多くの企業・団体が「Well-being」を標榜した取り組みを展開しているものの、なかなか先に進めていないのは「手段」が目的化してしまっているからではないだろうか。むしろ「Well-being」を追求するに当たって大切なことは、「幸福」の捉え方が1人ひとり違うように、「1人ひとりが考え、アプローチしていくこと」であるはずだ。

それは、SDGsにおいて「それぞれが掲げるべき目標がある」とする「18番目のゴール(隠れたゴール)」にも通じる。これまでの現在視点で手段を考え、目標に向かう「フォアキャスティング」のアプローチだけでは「Well-being」には届かない。将来視点から「理想」の頂を描き、俯瞰しながら多様なアプローチを模索する「バックキャスティング」の思考との融合が必要だ。
今回のスマイルークの事例は、それを地域発・中小企業発で実践できることを教えてくれた。今後、同社が理想と現実とのギャップをいかに埋めていくのか⁈ 重度障がい者の「Well-being」追求する同社が、福祉(Welfare)サービスの領域でどのような課題解決を図り、イノベーション(変革)を創出していくのか⁈ グループホーム「AILE」を含めて、今後の展開が楽しみだ。

【企業プロフィール】
株式会社スマイルーク
群馬県伊勢崎市三光町20番9号
代表取締役社長:板橋 亨
介護保険:訪問介護ケアサポ24(事業所番号:1070404338)
障害福祉:訪問介護ケアサポ24(事業所番号:1010401048)
喀痰吸引:訪問介護ケアサポ24(事業登録番号:101AB18007)
■Webサイト(コーポレート)
http://hp.kaipoke.biz/5b4/
■Webサイト(サービス)
https://www.caresapo24.net/

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