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山梨県が感染者搬送に特化した車両を保健所4ヵ所に導入

県庁前に並んだ感染者搬送車両

県対策本部・医療機関・保健所・消防との連携強化と役割の「集中と分散」を実現
変異株の脅威が顕著化し、第4波が現実味を帯びてくる中で、
早期発見・早期治療を目指した軽症者搬送に注力

2021年3月31日、山梨県に「感染者対応車両」4台が県庁に納車され、県庁にて県内4か所の保健所への引き渡し式が行われた。
偶然にも同日は、感染拡大が顕著な大阪府などからの要請を受けて、政府が「まん延防止等重点措置」を適用する方針を固めた日でもある。そして、翌4月1日に宮城県、大阪府、兵庫県において「4月5日から5月5日までの期間、まん延防止措置を実施すること」を決定した。
このまん延防止措置の背景には、「下げ止まり」と言われつつも、緊急事態宣言をはじめとするこれまでの対策で減少傾向にあった感染者数が確実にリバウンドに向かっていること、そして変異株が猛威を振るっていることなどがあげられる。事実、変異ウイルスによる新たな感染者数は、2月末から3月末にかけて全国で14倍に急増しており、一部の感染者を抽出した検査結果では、兵庫県では75%、大阪府では54%が変異株だったという。この関西圏で顕著な変異株はイギリス型と呼ばれる「N501Y」。既存ウイルスより感染力が強く、かつ重症化しやすいとされている。一方、仙台を中心に宮城県で急増しているのが、「E484K」と呼ばれる変異株。仙台市は、2月以降にCOVID-19(新型コロナウイルス)の感染が確認された検体の一部を検査したところ、8割が「E484K」と呼ばれる変異株であったと明らかにしている。この「E484K」は現在のところ由来不明で、感染力こそ従来と変わらないとされているものの、「免疫やワクチンの効果を低下させる可能性」が指摘されており、一度感染した人が再感染するリスクが懸念されている。
COVID-19における新たな脅威となっている変異株……。その変異は人から人へと感染していく間にも起きていく。もしかすると、さらにタチの悪い変異ウイルスが発生しないとも限らないのである。そうならないためには、「感染者数を増加させないこと」こそが喫緊の課題といえる。
山梨県の保健所に収められた「感染者対応車両」は、決して変異ウイルス対策を意図したものではないが、実はその可能性をも秘めている。今回はそのような視点から、「感染者搬送」の在り方について探ってみたい。

感染者対応車両

県庁前に集合した4台の感染者対応車両

山梨県が導入した「感染者対応車両」の目的と機能
感染者の搬送に伴う数々のリスクみきめ細かく対処

2021年3月31日午前10:30、山梨県庁前広場に4台の新車が整列した。トヨタのミニバン「ノア」のようだが、よく見ると天井に不思議な突起がみられる。いわゆる乗用車とは一線を画する車両のようだ。実は、この4台こそ、山梨県福祉保健総務課が仕様を策定し、入札を通じて発注していた「感染者対応車両」である。晴天に恵まれ、青空が広がったこの日、その納車と県内4か所の保健所への引き渡しが行われた。
県がこの「感染者対応車両」を導入した最大の目的は、「軽症者」を中心に新たな手段を設けることで、これまで消防の救急車に依存してきた感染者搬送の機動力を向上させることでであった。しかし、「軽症者の搬送」といっても、それを安心・安全かつ迅速に実施するためには、やはり多くのリスクを回避する必要が生じる。
まず第1に、車両を常にウイルスが充満していない状態に保つ必要がある。運転手ならびに介助者への感染を防ぐことはもちろんだが、場合によっては濃厚接触者や症状を訴える感染判定前の患者を搬送するケースも想定されるからだ。ちなみに第3波がピークに向かった際の搬送においては、いわゆる民間救急搬送事業者(患者等搬送事業)の搬送車も活躍したが、269事業者が登録されている東京都ではCOVID-19感染者の搬送を実施した事業者は2割程度にとどまっている。運転手・介助者の感染リスクを担保できないというのが、その理由の1つである。裏返せば、一般車両に場当たり的な措置を施しただけでは、乗車する人たちのリスクを防ぎ切れないということだ。

そこで、仕様の策定にあたって、福祉保健総務課ではかなり綿密な議論を重ね、詳細を決めていったという。その象徴の1つが、車両天井の突起である。この突起は換気口で、「感染者対応車両」の後部座席に装備された換気装置から、HEPAフィルターを通じて、社内の空気が安全に排出される仕組みとなっている。COVID-19の主な感染経路は接触感染,飛沫感染。しかしながら、換気の不十分な空間においては,空気中のウイルス濃度が高くなることがあり,感染リスクが生じる可能性が指摘されてきた。オフィスや商業施設において換気が奨励され、重視されてきたのもそのためだ。当然、狭い車内では、そのリスクは必然的に高くなる。そのことを念頭において、福祉保健総務課では換気装置ならびにその排気方法を使用の1つに加えたという。

感染者対応車両の換気口

天井にある突起が特別に装備された換気口

なお、山梨県が「感染者対応車両」に求めた主な仕様と今回の「感染者対応車」に施された対策は次の通りである。

1. 運転席側と後部座席側の「完全隔壁」を目指すとともに、後部座席の状況を正確に把握できる確認窓
→後部座席からの空気が運転席側に流れ込むことを遮断するために、鉄板で隙間なく密閉。同時に透明なアクリル板で、広い視界の確認窓を実装
2. 車内の運転者・同乗者・搬送される患者の感染防止を徹底する排気システム(換気装置)
→キャンピングカーなどで普及している強力な換気扇を採用して取り付け、さらに容易に交換可能なHEPAフィルターで排出する空気を濾過して安全性を担保
3. 可能な限り運転の負荷が少なく走行性能に優れたミニバンタイプ
→運転のしやすさ、長距離走行を踏まえて、トヨタの人気車種「ノア」を選定
4. 燃費効率と運転時の静粛性、省エネ・環境への配慮
→低燃費、低排出ガスなどの優れた環境性能に加えて、ハイブリットタイプを選定
5. 車椅子で乗り降りできる福祉車両としての機能を兼備
→福祉車両に用いられている電動スロープを搭載
6. 除菌・消毒・清掃の容易性に配慮した床面
→適度な柔軟性・弾力性と防水性・耐久性に優れたロンリウム加工を実施
7. 搬送者と患者の意思疎通を可能とするインターフォン
円滑なコミュニケーションを双方向で可能とするインターフォンを前席・後席ともに配備
8. 簡便な医療機器・検査機器の使用を可能とする給電設備
→最大300W正弦波100Vインバータを装備し、エンジン稼働時は後席の100Vコンセントから医療機器などを接続可能に。また、車両駐車時にはバックドアに装備したコンセントより社内コンセントへの給電を可能とするとともに、車両バッテリーを充電できる機能を付加。常に車両のバッテリー状態を最適に保つ構造とした
9. 前席(運転者側)と後席(患者側)におけるエアコンの完全分離
→フロイントとリアに異なる空調設備を配備
10. プライバシーへの配慮
→プライバシーに配慮したプライバシーガラスを標準とし、隔壁間の確認窓にもカーテンを設置
11. 点滴フック固定器具の標準装備
→車両オプションにて実装

感染者搬送車の確認窓

密室度が高い隔壁と大きな確認窓

感染者搬送車の換気装置

HEPAフィルター搭載の換気装置

感染者搬送車の電源装置

独立した電源装置によるコンセント

感染者搬送車のインターフォン

前席(運転手関)と後席(患者席)で双方向に通話・操作できるインターフォン

車椅子のまま乗降できる感染者搬送の電動スロープ

車椅子を安全かつ容易に昇降させる電動スロープ

単に要求仕様をクリアするのみならず、
一歩進めた提案やアイディアが満載

今回、山梨県から受注したのは山梨トヨペット株式会社(山梨県甲府市 代表取締役社長:髙野 孫左ヱ門)。トヨタのミニバン「ノア」をベースに求められたきめ細かい仕様をクリアして、今回の納車に漕ぎ着けました。そして、仕様を満足させ、感染者搬送車両としての機能向上を図るための企画・開発・製造を一貫して受け持ち、サポートを行ったのが、一般社団法人医療・福祉モビリティ協会の創立メンバーである株式会社エスティサポート(埼玉県東松山市 代表取締役社長:笹川 修一)。医療・福祉に関わる多くの特種用途車両及び機器の設計・製造・販売を手掛けてきた技術・ノウハウを、いかんなく発揮した。

仕様策定の経緯を知る山梨県福祉保健総務課 主事の田村 隆一氏は、納車された「感染者対応車両」の完成度について、次のような感想を述べていた。

「納車された車両は単に要求仕様をクリアするというだけではなく、一歩進めた提案やアイディアが盛り込まれていました。1つひとつの機能はもちろんですが、使う側の目線に立った操作性、日々のメンテナンスなどへの配慮なども盛り込まれ、私たちの想像を超える完成度となったと実感しています。実際の運用はこれからですが、保健所が新たなモチベーションを持って新型コロナウイルス対策に取り組んでくれることを期待しています」

当日は、感染者搬送に特化した仕様を有する「感染者対応車両」の付加機能についての説明とレクチャーも行われた。各保健所から引き取りに来た担当職員は、懸命にメモを取り、質問を投げ掛けながら、説明に対して真摯に耳を傾けていた。初夏を思わせる陽気の中、レクチャーを行った山梨トヨペットならびにエスティサポートともに、互いにいい汗を掻いた納車・引き渡し式となった。

感染者搬送車の引き渡しの際に実施されたレクチャー

食い入るように説明に耳を傾ける保健所の担当者たち

特に質問が集中したのが、車椅子で乗降できる電動スロープと医療機器・検査機器などと接続できる給電設備。前者においては、車椅子利用者の安全を担保することを目的に、電動スロープをより安全に利用するための操作手順や急坂などにおける使用例などに鋭い質問が相次いだ。後者においては、一般車両には装備されていないバッテリー管理装置、インバータ、充電器などが装備されているため、その機能や特徴をしっかりと確認し、質疑応答を踏まえて理解を促した。いずれも、レクチャーを行った山梨トヨペット ビジネスサポートグループの金子 俊一氏ならびに開発者であるエスティサポートの笹川 修一が丁寧に答えていた。

レクチャーに参加した保健所の担当者の1人は、次のような感想を述べてくれた。

「本音を言えば、早く新型コロナウイルスが収束することが1番ですが、現実的には首都圏や関西圏を中心に第4波が叫ばれているのも事実。この車両が実働するのはこれからですが、いざ感染拡大といった際にどれだけの命を救えるか、という命題に向けて、まさに身が引き締まる思いです。自分自身が感染者搬送に携わるかどうかは別にして、保健所の仲間たちにこの車両の機能と性能を伝え、共有するためにも、真剣にレクチャーを受けました」

感染者搬送車導入の背景にある
山梨県の新型コロナウイルス対策

ご存知の通り、山梨県は東京の南西に位置し、東京・神奈川・埼玉に隣接しており、首都圏との交流が盛んな地域である。また、県庁所在地の甲府市は人口約18.7万人で、中核都市の条件となる人口20万人以上には及ばないものの、2019年(平成31年)4月1日に施行時特例市から中核市に移行するなど、同県における経済活動の主要拠点となっている。にもかかわらず、首都圏直結の同県は、抑え込みに成功している自治体の1つとして大きな注目を集めている。

ちなみに引き渡し式が行われた3月31日の報道では、全国で2,843人の新たな新型コロナウイルス(COVID-19)感染者と49人の死亡者、東京においては新たに414人の感染と23名の死亡が確認された。その中にあって山梨県の発表では、同日の発生者数は5名にとどまっていた。
なお、新型コロナウイルス感染症の累計発生状況においても、同県の感染者数は1,071人(4月18日現在)と、都道府県別で9番目に低い数字となっている(最も多い東京都は130,083人、最も少ない鳥取県は297人 同4月18日現在)。

では、首都圏直結の山梨県が、なぜ、抑え込みに成功しているのか⁈
同県では「先手対応、事前主義」の方針のもと、感染症患者発生以前から対策を進めてきており、その3本柱となっているのが、①新型コロナウイルス感染症から県民の生命・健康を守るための「感染拡大防止と医療提供体制の整備」、②当面の県民生活の安定を確保するための「県民生活に与える影響の最小化」、③新型コロナウイルス感染症を「災害」と捉え、県民生活の基盤となる地域経済に及ぼす影響の封じ込めと極小化のための「県内経済の安定化・反転攻勢に向けた対策」である。短期的には回復に向けた緊急対策、中期的には跳躍に向けた支援策を体系的に整理しつつ、県独自の「休業要請個別解除方式」や「やまなしグリーン・ゾーン認証制度」など、全国から注目される多様な施策を矢継ぎ早に打ち出している。

「休業要請個別解除方式」は、最初の緊急事態宣言が発出された際に講じた施策で、全国に足並みをそろえる形で山梨県でも休業要請を出したが、その解除に当たって県独自のモデルを実施した。具体的には、県が示した基準『感染拡大予防ガイドライン』を満たした店舗に対して、個別に休業要請を解除していくという方法だ。ガイドラインには、30分に1回の換気や入場者の制限、人と人との間隔を最低1メートル確保するなどの「3密対策」、客やスタッフのマスク着用や定期的な手指消毒、入場者の入り口での体調確認など、合計17項目が盛り込まれており、県のスタッフはもとより、民間の手も借りて各店舗の事情や対策方法を聞き取り、本当に基準をクリアしているのかを『見える化』していったのが特徴である。さらに県が示した基準をクリアするためにかかるコストに対する助成も行った。

この「休業要請個別解除方式」を一歩進めて、感染拡大防止の新たな方策として普及に取り組んできたのが、「やまなしグリーン・ゾーン認証制度」である。対象は休業要請において対象外であった県下の宿泊業、飲食業、ワイナリー、酒蔵で、それぞれ30~50のチェック項目をクリアすれば県から感染症対策のお墨付きを受けることができる。認証に当たっては、県のスタッフや委託業者が現地まで行って事業者側の相談に乗りながら、申請の手続きを行い、ここでも人と人の接触を減らすために必要な物品購入や設備整備を支援する助成金の仕組みが用意されている。
ちなみに東京都においても「レインボーステッカー」という仕組みがあるが、これは基本的に施設側の宣言のみ。これに対して「やまなしグリーン・ゾーン認証制度」は山梨県が責任をもって現地調査を実施し、安心・安全を担保しようとするものだ。現在、県下の90%以上の対象施設が認証済または申請中という。

さらには、高齢者への新型コロナウイルスワクチン接種を巡っても、県がモデル市町村を選定し、先行接種を実施するなど、新しいモデルを構築しようとしている。

やまなしグリーン・ゾーン認証

店舗に貼られた「やまなしグリーン・ゾーン認証制度」のステッカー

以上のように先進的かつ独自性がある感染対策を講じている山梨県だけに、今回の「感染者対応車両」の導入についても期待が膨らんでいく。その根底に「先手対応、事前主義」の方針が垣間見えることは間違いないが、第4波の到来といわれる現在、それは変異ウイルスの脅威に立ち向かう術にさえなり得ると考えるからだ。確かに感染者の搬送は、直接的には変異ウイルスを封じ込める策にはならないかもしれない。しかし、より早期に変異ウイルスに感染した人を抽出し、その後の対応策に活かしていく指針の一助にはなり得るはずだ。
残念ながら、報道によると、すでに山梨県においても変異ウイルスの感染者が確認され始めている。4月18日には山梨県と甲府市が3人の新型コロナウイルス感染を確認したと発表し、そのうちの1人が変異ウイルスに感染していたことが確認されている。症状は3人とも軽症で、これまでに感染が確認されている人の接触者か濃厚接触者であったという。山梨県がいかに変異ウイルスを抑え込むか⁈ また、その際に「感染者対応車両」がどのような役割を果たすのか⁈ 今後とも、その動向を探っていきたいと思う。

 

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